知床岬の携帯電話基地局計画は10月、凍結が決まった。実質的には断念で、これで世界自然遺産の核心部は守られた。でもなぜ知床の普遍的価値を損ないかねない大規模な計画が許可されたのか。不可解さはいまも残る。

 初報は今年4月。総務省主導の推進会議が月末に迫り、知床岬への機材や資材の搬入準備が進んでいた。そんな時、「関係者限り」の計画概要を入手。その規模の大きさに驚いた。太陽光パネル群、2キロに及ぶ掘削工事……。半年も重機が騒音をたてて動き回り、多くの作業員が行き交うのだ。

 推進会議は関係省庁や道、地元2町、観光・漁業団体、携帯会社などで構成。計画は着々と進む。ところが記事を契機に反対の動きが一気に全国へと広がった。斜里町の午来昌元町長(88)らもネット署名を展開、町長と町議会が再考を求め、「地元2町の要望」が崩れたことが決定打となった。

 「不可解」には、環境省が許可前に知床の科学委員会に助言を求めなかったことがある。助言を求めればオジロワシなどへの影響調査の不備が指摘され、いずれ計画は凍結か大幅遅れになったろう。計画は総務副大臣を務めた長谷川岳氏の肝いりだけに忖度が働いたのかもしれない。真偽は不明だが、強引な進め方に疑念を抱く人もいた。

 発端は小型観光船の沈没事故だ。だから現場では「人の命の方が重い」とよく言われた。だが、知床では漁業振興も観光利用も常に地元と研究者らが知恵を出し合って自然保護との両立を図ってきた。天秤(てんびん)にかけるものではない。携帯問題は目前に迫るスターリンク衛星とスマホをつなぐサービスの汎用(はんよう)化を見極めてからでも遅くはない。

 来年は遺産登録20年。知床を未来にどう残すのか。環境異変を踏まえ、考えるいい機会だ。

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